【異世界】『天咲24年』『死体が時を超えて』『地震が無い次元へ行っていた友人』【怖い話・短編3話まとめ】

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天咲24年の未来人

これから話す内容は、ムラさん(仮名)から聞いた話。

その日、僕はムラさんの部屋で男二人飲んでいた。

ムラさんの仕事はフリーの社会派ライター。

当時、部落や公園を回っては、浮浪者からなぜ今の生活に落ち着いたのかなど過去を聞いて回り、いずれ本にまとめて発表する予定だった。

「でもそんな簡単に浮浪者が話してくれるんスか?」と僕が聞くと、
「ウラワザがあるんだよ」とニッと笑って、部屋にある一升瓶にアゴをやった。

手土産として酒と簡単なツマミでも持っていくと、連中の口も軽くなるという寸法らしい。

そうしてムラさんが集めた体験談によると、昔は小さな町工場を経営していたという者、田舎の農村から冬場の稼ぎのために上京しそのまま浮浪者になったという者など、様々な過去話が聞けたそうだ。

「面白い経歴の浮浪者はいなかったんスか?」

僕がそう尋ねると、ムラさんはちょっと考えたような顔つきになり、黙ってタバコを吹かす。

「使えない話ってのがあってな。明らかな大ボラとか、頭がおかしくなってる奴の話なんだが」

そこで言葉を切り、タバコを消すムラさん。

「聞かせてくださいよ!」

妙にもったいぶるその仕草に僕は急かす。

「自分はテンショウ24年の未来から気たって男がいてな」

「ぷっ、未来人スか?バックトゥザフャーチャーじゃあるまいし、どうやって未来から来たって言ってたんスか?それにテンショウって、昭和の次の元号のつもりですかね?」

突然のトンデモ設定に、僕も思わずニヤニヤしてしまう。

堅物のムラさんが語るにしては面白そうな話だ。

「まあ待て、あったあった、これだ。天咲24年」

ムラさんが手帳を取り出し、僕に元号の字を見せてくれた。

ここで突然、僕の記憶は霞がかかったように途絶えている。

そして次の記憶は、手帳を見ながらムラさんが、色々とその浮浪者(姓名も恐らく聞いたはずだが思い出せない)について語っていた。

「こいつ(浮浪者)のいた時代の首相は、森ナニガシ(名前不肖)という歴代初の女の首相らしい」

「おー、女性首相、遂にきちゃいましたか!」

僕が相槌を打つ。

「こいつは学校には通ってなかったらしい。コンピューターで特別な授業を受けて育ったそうな」

「という事は未来では学校が無いって事スかね?」

「メモには書いてないな。聞いたような、聞かなかったような。俺も冗談半分聞いてたからな」

ムラさんがメモをめくる。

「未来では、大きなアーケード状の建物の中に、車が走る道路や公園、店や団地が全部あるそうだ」

「屋外って概念が無いって事スか?核戦争で汚染されてるとか」

「いや、これは主に人が多い都心部だけで、地方ではそこまでは整備されてないらしいな」

ムラさんがまたメモをたどる。

「あったこれだ。こいつは15歳のある日、気が付いたらこの時代の代々木の辺りにいたらしい」

「そりゃまた随分と唐突なタイムスリップっスね」

「激しいパニックに陥ったところを警察に見つかり保護されたが、身元も分からない上に話は要領を得ない。隙を見て逃走した彼は、途方に暮れたまましばらくの間、隠れるように町の片隅で生活していたが、なんとか公園(失念)の浮浪者の顔役に声を掛けられて、以来18年ずっとそこで暮らしてきたらしい」

「つぅ事はそいつは今33歳スか。まだ若いですね」

「『戸籍が存在しないから働きようがない』と本人は言ってたが」

「未来人を騙る、働きたくない今時のグータラな若者ってやつですかねー」

こんな感じでムラさんの話は終わった。

この時から5年後、血相を変えたムラさんから、その浮浪者に再び会いに行ったが、なんでも不良による浮浪者狩りにあって亡くなった、との事を聞いた。

今になってそいつに何か用事でもあったのかとムラさんに聞くと、そいつが言っていたとある事が本当に起きた、との事だった。

「大スクープをモノにできるかもしれん」

ムラさんの目は血走っていた。

ムラさんの雰囲気に圧倒されて、詳しく聞けなかったのが今でも悔やまれる。

ムラさんはその後、とある事件を追っていて死んでしまったから。

遺体からも部屋からも、ついにそのメモは見つからなかった。

〈了〉

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死体が時を超えて

婚約者が決まり、それまで付き合っていた年上の女が邪魔になった男が、別れ話を車でしていた時に、

「私との関係を婚約者にばらす」と言われ、切羽詰って殺害を決意。

混乱する頭の中で、ともかくなだめながら夜の高速を走り、どことも分からない場所で高速を降りて暗い山道へ。

「外の空気を吸おう」と言って車外へ女を出すと、その辺りにあった大きな石で彼女の頭を後ろから殴打した。

計画性のあったものじゃなく、ますます混乱する男。

車道を少し入った場所で、女の死体を崖の上のような場所から投げ捨てた。

慌てて車に戻るとアクセルを目いっぱい踏み込んで、どこでもいいからと大きな道を探して走りまわった。

ようやく見つけた舗装された道。少し落ち着いて、タバコに火をつけて車を停めた。後悔よりも安堵が包む。

それから数週間して、男は婚約者と彼女の実家へと向かっていた。

結婚式の打ち合わせを兼ねた顔合わせだった。高速を飛ばして郊外へ。

彼女の実家付近で高速を降りて、山に沿った道を走っていくと、ん?ここは・・・

記憶にある道。なぜ?初めての彼女の実家のはず。

その瞬間、車の屋根にドスン!という鈍い音。キキィー!とブレーキの甲高い音。

急停車したせいで伏せた顔を上げると、そこにはどす黒く汚れた女の顔。
「ギャ~~~~!」彼女の叫び声が上がった時、男が見たのは、口元がニッと上がったその女の顔。

警察に電話を入れてパトカーが来て、実況見分が始まった。

救急車で運ばれた女は、山の斜面から落ちてきたらしく、理由は不明だった。

病院から死亡の連絡を受けた警察の説明では、女の死因は衰弱と餓死。
分からなかった身元もその時分かった。

あの女。邪魔になって殺したはずの女。

男は半狂乱でその場で事実を全て話した。首をかしげる刑事。

「でもね、この女性が死んだのはさっきだよ?」

約3週間ものあいだ、女は山中で生きていた。しかも大怪我で多量に出血しながら。

でも、どうやって男の車に落ちたのか、また、男の車を発見できたのか。
偶然か、執念か。

20数年前の地方紙の記事より。

〈了〉

引用元:https://hobby7.5ch.net/test/read.cgi/occult/1098907962/

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地震が無い次元へ行っていた友人

ふと思い出した、大震災の時の話です。

被害の比較的小さい地域だったのですが、当時住んでいたのは築10年程のマンション8階で、結構揺れました。

(ピアノは固定台から外れ30cm程動き、食器棚は倒れ中身はほぼ全壊。台に置いていた電子レンジや炊飯器は、コンセントが引っこ抜けて部屋の端から端まで吹っ飛ぶといった状況でした)

家族全員地震に飛び起き、もしもの時の避難にとりあえず着替えだけは済ませようとしていた時…玄関のチャイムが鳴りました。

インターホンに出てみれば友人です。

当時中学生だった私は、友人と早朝マラソンを毎日していたのですが、彼女は今日もその誘いに来たというのです。

とりあえず家に入れ、

「え…(こんなすごい地震なのに)何で来たの?マンション揺れてなかった?」等と聞いた所、きょとんとして、

「へ、何それ?あ、何かこの家散らかってるね~どうしたの?」

と、地震を知らない様子。しかも、エレベータで上がってきたというのです。

彼女の家からうちまでは徒歩で10分程度。

寄り道はしなかったということなので、逆算すると丁度揺れてる真っ只中に家を出て、余震もある中歩いてきた事になるのですが…

「ブロックとか瓦とか落ちてこなかった?」と言っても、「ううん、全然」という返事です。

さっぱり訳がわかりません。

ですが、とりあえず今日は止めようと彼女を促し、階段で下まで降りました。

一階ロビーで見ると、案の定エレベータは止まっていました。

マンションの壁には幾筋も亀裂が入っています。

近所の一軒屋の瓦は3分の1程道に落ちて割れているし、道路もひび割れ隆起するなど、周囲もなかなかひどい状況です。

彼女はそれを見て心底びっくりしたらしく、「ちょっと帰るわ」と走って帰りました。

後日聞くと、彼女の家(年代物)も被害が大きくて驚いたとの事でした。
何故彼女が地震に気付かず、余震もある中エレベータで8階まで来られたのでしょうか…。

鈍いだけなのか、守護霊でもいるのか、はたまた時空の歪みでも通ってきたのか。

いずれにせよ、当時は彼女をほんのりと怖い子だと思ったのでした。

〈了〉

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